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福岡高等裁判所 昭和34年(ナ)2号 判決 1960年4月09日

原告 野上命助 外一〇名

被告 大分県選挙管理委員会

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、昭和三十三年十月一日執行の大分県西国東郡香々地町長選挙は無効とする、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

原告等は大分県西国東郡香々地町選挙人名簿に登載された選挙人であるところ、昭和三十三年十月一日執行された同町々長選挙には左記(一)ないし(四)のような無効事由があつたので、原告等は同月十日選挙事務を管理する香々地町選挙管理委員会に対し文書で右選挙の効力に関する異議の申立をなしたところ、同委員会は同年十一月九日原告等の異議申立を棄却した。

そこで原告等はこれを不服として同月十五日被告委員会に対し文書で訴願を提起したところ、同委員会は右訴願を棄却し、その裁決書は昭和三十四年一月十五日原告等に送達された。原告等は右裁決に不服であるから、請求の趣旨記載の旨の判決を求めるため本訴請求に及んだ。

(一)  投票箱の施錠、かぎの保管、投票箱の送致及びその保管等に選挙の規定に違反することがあり、不正行為を行う可能性が十分あり、選挙の公正に疑惑を抱かしめるもので、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある。

(1)  公職選挙法施行令第三十三条によれば「投票箱はできるだけ堅固な構造として且つその上部のふたは各々異つた二つ以上の錠を施さなければならない」と規定されているのに、本件選挙に使用した投票箱にはこれが開閉用に一個の錠しか設けていない。

(2)  第三及び第六投票所で使用された投票箱を閉鎖した後の施錠には封印がなされていない。

(3)  投票箱閉鎖後施錠のかぎを送致するために封入した封筒は六枚であり、うち四枚(第一、第三、第五及び第六投票所)には二個づつのかぎが封入され、一枚(第二投票所)には一個だけが封入され、残りの一枚(第四投票所)には三個のかぎが封入されていた。被告は証拠として十枚の封筒を提出しているが、このうち何枚が偽造のものであるかは不明である。

選挙管理委員であり、開票前夜投票箱の保管場所に宿直した榎本哲次が投票管理者であつた第一投票所のかぎ送致用の封筒(乙第一号証の一)には投票立会人江口幹人の押印がなく、大きさの異つた山本の印が二個押捺されているが、投票箱閉鎖後これと同時刻頃作成されたと思われる投票録(乙第九号証の一)には右江口の署名捺印があるところよりすれば、右の封筒は偽造されたものであることが明白である。

同じく選挙管理委員であり宿直に当つた繁友梅次が投票管理者であつた第二投票所の同封筒には同人一人の封印だけがあり、開披しても後に同人の印で別にかぎの封入ができる。

選挙管理委員長であり、同じ宿直に当つた友久逸登久が投票管理者であつた第四投票所の同封筒(乙第四号証)には第二投票所のかぎ一個を含め三個のかぎが封入されて封印されているが、上部五個の封印中「光成」の印がさかさに押され、下部の印は光成、松本、松成の三個の印だけであり、また他の投票所のものは封筒の裏面上部一ケ所が上、下二ケ所だけに封印があるのに、この投票所の封筒に限つて上、下及び裏面中央の三ケ所に封印があり、特に封筒を封ずる下部の折返しは製造の際の糊付けの外に更に一回糊付けされた形跡がある。

(4)  本件選挙に使用された投票箱に設けられた錠は小豆色のものと録色のもの各五個、青色のもの二個の計十二個であり、同色の錠はかぎが共用できるものであり、一つの箱には二ケ所(上部と横)に施錠できるが、そのうち横の錠を開けば投票箱を開くことができる仕組になつていること、以上の事実と右(2)及び(3)の事実を綜合すれば、投票箱閉鎖直後封印されたかぎ入封筒(第一、第二及び第四投票所)が開披され、この六個のかぎで第三及び第六投票所の投票箱が開かれたうたがいがある。

また第二及び第四投票所のかぎ入封筒が偽造である以上第二及び第四の封筒に押してある印章で錠の封印ができる筈であるから、第三、第六だけでなく、第二及び第四の投票箱も容易に開くことができるわけだから、これまた開函のうたがいがある。

(5)  前記施行令第四十三条によれば、各投票箱閉鎖後施錠のかぎ二個のうち一個は投票箱を送致すべく投票立会人が、他の一個は投票管理者が夫々これを保管すべきであるのに、本件選挙では投票箱を開票所に送致するに当り、二個の錠のかぎをすべて投票管理者又は選挙事務従事者が持ち、投票の立会人が附添わず開票管理者に送致された。

(6)  開票前夜の投票箱保管場所の宿直が前記三名の選挙管理委員だけの少人数でなされ、不正行為が行われる可能性がある。

(二)  投票用紙に関する次の事実から、投票用紙が不正に動いた疑、又は投票箱の不法開函の疑がある。

(1)  開票録によれば、総投票者数四、一六五人のところ、有効投票四、一三二票、無効投票二三票、有効無効の合計四、一五五票であるから、差引き十票不足となり、この十票の行方が不明である。

(2)  購入した投票用紙四、七〇〇枚から投票総数四、一六五枚を控除すれば、未使用の用紙五三五枚が残つている筈であるのに、実際は五七二枚残つており、これによれば投票当日投票所で受付済みの選挙人三七名に投票用紙を交付しなかつたことになる。

(3)  香々地町選挙管理委員会は投票用紙四、七〇〇枚の印刷を他に注文したが、注文品を受取る際枚数を数えず、またこれを各投票所に渡す際も百枚括りの内容を確かめず、端数だけを数えて渡し、受渡の手控もしていなかつた。投票用紙計算書(乙第十号証の一ないし七)は選挙がすんだ後昭和三十三年十月三日以後に作成されたものである。

(三)  昭和三十三年十月二日の開票に当つて開票事務と選挙会事務とを併せて行つたものであるが、選挙長(開票管理者)及び選挙立会人(開票立会人)が投票の大部分約四、一三二票についてこれを点検せず、かつ選挙長が有効投票と称するもの全部及び無効投票の一部について選挙立会人の意見をきかず、選挙事務従事者の不正確な計算に基づいてその効力を決定し、候補者豊田護が当選者であると発表した。右の次第で立会人松成和市及び清国八郎は開票録に署名捺印しなかつた。右は公職選挙法第六十六条第二項、第六十七条に違反し、右違反は投票の大部分についてなされた効力の決定が公正に行われたことを保証することができないものであり、選挙を無効ならしめる。

(四)  土建業を営む株式会社菅組の代表取締役訴外堤与は本件選挙で当選した豊田護の最有力な後援者であつたが、投票当日同人及び右会社所有の自動車で投票開始前の午前七時頃から十時半頃までの間少くとも百人以上の選挙人が投票所に運ばれた。訴外人が何等の野心なく、求めるところもなくして便宜を供与するとは思えず、また同人の車で運んで貰えば同人の応援する人に投票するのが人情であろうし、証拠はないがおそらく豊田に投票してくれと依頼しているであろう。

右の事実を目撃した者が町選管に通知したところ、選管は右事実を認めながら、警察がやることで選管の責任ではないと約二時間傍観し、その後通報を受けた巡査の制止によつて中止されたがその間に約三分の一の投票は終つていた。

本件選挙が自由公正に行われなかつたことは以上の事実によつても明白である。

と陳述した。(証拠省略)

被告代表者は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告等が選挙人であり、その主張の選挙が行われ、豊田護が当選したこと、原告主張の経緯で本訴が提起されたこと、原告主張の(一)の(2)の事実、同(3)の事実中、香々地町選挙管理委員会の委員長が友久逸登久(第四投票所投票管理者)、同委員が榎本哲次(第一投票所投票管理者)繁友梅次(第二投票所投票管理者)外一名であり、右三名が投票終了後開票前の投票箱の保管場所に宿直したこと、乙第一号証の一の封印、乙第九号証の一の署名捺印、第二投票所の封筒の封印、乙第四号証の封印が原告主張のとおりであること、同(4)の事実中投票箱の構造、錠の色分けとかぎの関係が原告主張のとおりであること、同(5)の事実中一部の投票所において投票箱の送致に際し投票立会人が附添わなかつたこと、投票箱と同時に送致すべきかぎの取扱について一部の投票所においては投票管理者及び立会人が別々にかぎを保管しなかつたこと、同(6)の事実中選挙管理委員三名が宿直したこと、(二)の事実中投票用紙五七二枚が残存していること、以上の事実は認めるが、原告その余の主張事実は否認する。なお原告等の主張について

(一)(1)  本件投票箱は公職選挙法施行規則第六条により調製され全国各種選挙に使用されている適法なものである。

(3)(4) 不正行為がなされたというのは原告等の想像にすぎない。

(二)  投票用紙は四、七三七枚が作られ四、一六五枚が使用され、残存五七二枚であつて、疑わしい点はどこにもない。

(三)  開票は適法になされた。

(四)  かりに原告主張のような事実があつても、それは選挙管理に無関係で、選挙違反の問題となつても、選挙の効力には関係がない。

要するに本件選挙には、かぎの処置等について若干の手落ちがあつたが、投票箱の保管は安全かつ厳重になされ、開票手続にも違法な点はなく、選挙の公正を害し、その結果に異動が及ぼすほどの事実はないから、原告等の本訴請求は理由がない、と陳述した。(証拠省略)

理由

昭和三十三年十月一日大分県西国東郡香々地町の町長選挙が行われ訴外豊田護が当選したこと、原告等が右選挙において選挙人であつたこと、原告等が右選挙の効力に関しその主張のように異議、訴願をなして本訴を提起したことは、いづれも当事者間に争がない。

(一)(1)  証人塩崎活、飛延二六、榎本広、堀与平、坂本勝、秋成弘の各証言及び検証の結果を綜合すれば、本件選挙に使用された六個の投票は、長方形の金属製組立式(検証調書添付写真第十二、第十三参照)のものであり、上面略正方形の中央に投票投入口が設けられ、これを覆う左右折畳式の蓋があり、蓋を閉ぢた上で施錠(便宜内錠と称する)するようになつて居り、箱の開閉は下部が固定された長方形の一側面を引き開け、又は閉ぢる方法でなされ、閉ぢた上でこの側面の上部と箱の上面とを連結する金属片に施錠(便宜外錠と称する)することによつて開箱を不可能にする仕組になつていることが認められる。(金層製のものは箱の開閉が一側面によつてなされる構造になつていること、すなわち内錠は箱の開閉とは無関係であることは当事者間に争がない。)

ところで公職選挙法施行令第三十三条には原告等主張のように投票箱の上部のふたに各々異つた二つ以上の錠を施すことを命じているが、その趣旨は箱に納められた投票に不正行為が行われることを防止するため、一個の合かぎでは投票箱を開閉できないような仕組にすることを要求したものと解せられるから、単に二個の異つた施錠があるというだけではこの要請を満すに十分でなく、従つて本件選挙に使用された投票箱の構造は右規定に違背しているという外はない。

(2)  原告等主張の(一)の(2)の事実は当事者間に争がない。証人塩崎活の証言によれば、錠前の封印とは錠のかぎ穴を塞ぐ目的で錠前の内部機構を包む金属箱部分に紙テープを巻付け糊付けして、紙片の末端部分に投票管理者と立会人が押印し、もつて同一の印形がない限り、形迹を残さずにかぎ穴を露出できないようにすることであり、香々地町では従前から各種の選挙に慣例的に行われていたことが認められるが、大分県選挙管理委員会公職選挙事務取扱規程によるも、このような措置をとることを命じてはいないし、選挙の公正を保つ上から見ても合かぎの保管が安全確実になされている限り、必しもこのような処置を必須とは考えられない。

(3)  証人榎本哲次、塩崎活、松原徳松、繁友梅次、堂山蓮生、坂本勝、堀与平、飛延二六、定永芳郎、榎本広木村幸平、友久逸登久、秋成弘、光成太、益戸利隆、竹下三次、柳本重幸、松村只寿、大力勤、大友泰峰、吉武欣哉、江畑春雄、後藤松夫の各証言及び検証の結果によれば、本件選挙は第一ないし第六投票所において投票が行われ、各投票所における投票終了後投票箱が閉されて夫々二個の施錠(内錠、外錠)がなされ、合かぎは香々地町役場備付の同役場を印刷で表示したハトロン紙製一重和様封筒十枚に入れられ、封印されたこと、第一、第二、第五及び第六投票所における合かぎは内かぎと外かぎとを各々別個の封筒(乙第一、第二、第五、及び第六号証の各一、二)に納めたが、第三及び第四投票所においては各一枚の封筒に内外二個のかぎが納められたこと、第一投票所の外かぎを入れた封筒には投票管理者榎本哲次、投票立会人牛迫外二名の封印がなされているが立会人江口幹人の封印はなく、また立会人山本の印が二個押捺されているが、それは最初の印影が鮮明でなかつたので、念のためいま一度押し直したためであること、第二投票所の封筒二枚(乙第二号証の一、二)には投票管理者繁友梅次の封印はあるが投票立会人の封印はないこと、第四投票所の封筒(乙第四号証)にはその裏面の上、下及び中央張合せ線上に夫々投票管理者友久逸登久、投票立会人光成太外三名分都合各五個の押印がなされ、上部五個の封印中光成の印だけが逆さに押されていること他の投票所の分にはこのように封筒の裏面中央線上に押印があるものはないこと、以上の事実が認められ、原告等主張のように乙第四号証の下部折返しが重ねて糊付けされたと認むべき形迹はなく、また第一、第五、及び第六投票所のかぎは各一枚の封筒に二個宛のかぎが封入されていたとか、第二投票所の分は封筒が一枚だけで、それに一個のかぎしか入つていなかつたとか、或は第四投票所の封筒には三個のかぎが封入されていたとかいう原告等の主張事実は、措信できない証人清国八郎、松成和市の各証言を除いてはいづれもこれを認めるに足る証拠はなく、前叙十枚の封筒のいづれかが開票所における適法な開披前に開披されたとか偽造されたという事実を推測させるだけの資料はない。

そこで投票終了後投票箱が閉鎖された直後から開票までの間投票箱及びかぎの送致及び保管がどのようになされたかについて検討するに、前顕((一)(3))記載の各証人(証人清国八郎、松成和市を除く)、証人平松力男の証言とその証言により成立を認めうる乙第七号証、証人後藤竜夫、西本敏雄、本間太郎の各証言を綜合すれば、各投票所における投票終了し、投票箱を閉鎖施錠の後、第一投票所(香々地町役場)においては同所の投票管理者榎本哲次(選挙管理委員)が付添の上投票事務従事者をして投票箱を役場内小会議室に運ばせ同所において同人が看視に当り、第四投票所においては役場吏員の運転する自動車に同所の投票管理者友久逸登久(選挙管理委員長)が同乗の上投票箱を積込み、右自動車は第三投票所に赴き、同所の投票立会人富田滝松と投票事務従事者一名を同乗させ、同所の投票箱を積込み、両名は途中小池部落で下車してその後の送致を友久に依頼し、自動車は更に第二投票所に赴く途中片山トンネルで同投票所の投票箱を運ぶ同所の投票管理者繁友梅次(選挙管理委員)投票事務従事者近藤正行、同堤高夫の自転車隊一行と出逢い、近藤の自転車から投票箱を自動車に移して繁友と堤も同乗し、以上三個の箱を保管場所である前記役場小会議室に運び入れて友久及び繁友の両名もこれが保管に加わり、また第五投票所の投票箱は同所の投票事務従事者大力勤と投票立会人井ノ口満雄が役場差廻しの三輪車に乗せて第六投票所に赴き、同所の投票箱を預る投票事務従事者吉武欣哉を同乗させて前記役場小会議室に運び右二個の投票箱を前記選挙管理委員三名に引渡したこと、また投票箱の合かぎは前認定のとおり各投票所毎に一枚又は二枚の封筒に入れて封印の上、第一投票所分は同所の投票事務従事者塩崎活が友久逸登久に渡し、第四及び第三投票所分は友久逸登久が各投票所で投票箱を受取る際受取り、第二投票所分は繁友梅次が預りこれを友久に渡し、また第五、第六投票所分は前記投票箱を送致した者が役場到着後一旦塩崎活に渡した上同人より直ちに友久に引渡されたこと、右各投票箱及びかぎの送致に際しては各投票所より保管場所までの途中、長時間停車道寄り、選挙に無関係の者の同乗、外部よりの工作等の異変はなく、極めて平穏かつ順調に運ばれ、その間投票箱に不正な行為がなされるような状況は全く認められないこと、投票箱を保管する町役場小会議室は、翌日開票直前までは内部より施錠をなし、必要の場合以外は扉を開かず、前記選挙管理委員長及び委員二名が厳重に看視し、(三名が保管に当つたことは当事者間に争がない)なお所轄高田警察署より巡査の派遣を乞い、日没より夜明けまで役場の周辺の警戒に当つて貰つたが、何等の異状も認められなかつたこと、以上の事実を認めることができ他に右認定を左右するに足る証拠はない。

すでに述べたとおり、本件投票箱はその構造において法の要請を満しておらず、また公職選挙法施行令第四十三条の規定によれば、投票箱を閉鎖し、施錠の上一つのかぎは投票箱を送致すべき投票立会人、他のかぎは投票管理者が保管しなければならぬことになつており、大分県選挙管理委員会の公職選挙事務取扱規程第三十四条によれば「令第四十三条の規定によるかぎの保管をしようとするときは、かぎを封筒に入れて投票管理者及び投票立会人全員で封印し、封筒の表面に投票区名及びかぎの区別、保管者名を記載しなければならない。」と規定してあり、本件投票箱の送致方法が法令の精神に適合せず、(投票立会人及び投票管理者は投票箱の保管及び送致の責任上、これを送致する際には少くとも一人の附添が適当であり、本件のように投票箱の構造が不完全な場合には二人共附添うべきであろう。)またかぎの保管が一部法令に違背することは前認定により明らかであるけれども、本件各投票箱の送致及び保管に際しては前叙のとおり投票箱の不法開披ないしこれに対する不正行為が行われたと推測できるような事情は全く見られず、却つて保管は厳重になされ、不正行為が行われなかつたと推測できるから、右法令の違背があつたからといつて選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとはいえない。

(二)  証人藤原テル子、塩崎活の各証言によれば本件選挙に使用された投票用紙は香々地町選挙管理委員会より藤原印刷所に四千七百枚の印刷が注文されたが、印刷の上委員会に引渡された際にはその枚数が確認されなかつたことが認められる。しかしながら証人榎本哲次、松原徳松の証言及びその証言により成立が認められる甲第九号証の一、証人繁友梅次、坂本勝、堀与平、飛延二六の各証言及びその証言により成立を認めうる乙第九号証の二、証人定永芳郎の証言及びその証言により成立を認めうる乙第十号証の二、証人榎本広、木村幸平の各証言及びその証言により成立が認められる乙第九及び第十号証の各三、証人友久逸登久、秋成弘、光成太、益戸利隆、竹下三次の各証言及びその証言により成立を認めうる乙第九及び第十号証の各四、証人松村只寿、大力勤の各証言及びその証言により成立を認めうる乙第九及び第十号証の各五、証人大友泰峰、吉武欣哉の各証言及びその証言により成立を認めうる乙第九及び第十号証の各六、証人塩崎活の証言、証人藤原テル子の証言の一部を綜合すれば、投票用紙に選挙管理委員会の印を押捺したもの四千六百七十八枚のうち四千六百五十枚が各投票所に配付され、二十八枚が選管書記塩崎活の手許に残存し、なお五十九枚は委員会の押印をせず不在者投票用として同書記の手許に保留されていたことが認められるから、印刷所より納入されたのは以上合計四千七百三十七枚であつて、注文より三十七枚余分に納入されたものと推認されること、各投票所において選挙人に交付された総数は四千百十六枚で、残り五百三十四枚が委員会に返却されたこと、不在者投票用として保留されていた前記五十九枚の内四十九枚が実際に使用され、十枚が右書記の手許に未使用のまゝ残存すること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る資料はない。

(1)  本件選挙における有効投票は四千百三十二、無効投票二十三合計四千百五十五であることは当事者間に争がなく、証人友久逸登久の証言により成立を認めうる甲第八号証選挙録の記載によれば投票総数四千百六十五とあることが認められるけれども前叙各事実より見れば右選挙録に記載された投票総数とは投票当日における投票数と不在者投票数の合計ではなくして、投票当日各投票所で投票用紙の交付を受けた人員数四千百十六と不在者投票者の数四十九との合算数であることが明らかであり、従つてこれと有効無効投票との差十枚は、投票所において投票用紙の交付を受けながら何等かの事情により投票しなかつたものがあることを推認させるだけのことであつて、(塩崎証人の証言と右甲第八号証によれば無効票二十三票の中一票は正規の投票用紙でなく甲第五号証の入場券を使用していることが認められるから、選挙人に交付した用紙のうち十一枚が投票に使用されなかつたことになる)このような事態は他の選挙でも起りうることであり、このような事実があるからといつて投票用紙が不正に動いたとか、投票箱が不法に開かれたという事実を推断するには全く不十分である。

(2)  原告の主張(二)の(2)は印刷所より委員会に引渡された投票用紙が四千七百枚であるという仮定の上に立つた立論であり、この仮定が事実に反することは前叙のとおりである。

その他投票用紙関係で疑惑をさしはさむ余地がないことも前叙のとおりである。

(三)  昭和三十三年十月二日本件選挙の開票事務と選挙会事務とが併せ行われたことは被告の明かに争わないところであり、同日の選挙録には選挙長友久逸登久、選挙立会人江畑春雄、同後藤松夫の署名捺印はあるが、選挙立会人松成和市、同清国八郎の各署名捺印がないことは前記乙第八号証によつてこれを認めることができる。

証人友久逸登久、江畑春雄、後藤松夫、塩崎活、後藤竜夫、西本敏雄の各証言、証人松成和市、清国八郎の各証言の一部とその証言により成立を認めうる甲第二号証を綜合すれば、開票当日開票に先だち投票箱及び友久が開票所に提出したかぎの点検が行われたが、選挙立会人後藤松夫は第三及び第六投票所の投票箱の施錠に封印がないこと及び第二投票所のかぎ入封筒は投票管理者繁友梅次一人だけの印で封印していることを指摘し、ついで同立会人清国八郎は第二投票所のかぎ入封筒のうち一枚(外かぎ用)にはかぎが一箇しか入つていない、第四投票所のかぎ入封筒には三個のかぎが入つていると主張し、右のうち第四投票所の封筒に三個のかぎが入つていることは確認されなかつたが、その他の事実はいづれも確認された。しかしながら施錠の封印は必しも必要でなく、かぎ入封筒の封印方法は違法であるが、第二投票所の投票箱の施錠には封印がしてある、ということで後藤の指摘した点は各立会人とも一応諒解を与え、また第四投票所のかぎの問題はそれ以上紛きゆうせず(前段認定によれば清国の指摘は誤りであつたと認められる)開票に着手した。開票は同事務従事者の手で投票を一応選別整理した上で先づ疑問票を友久選挙長の許に持参し、選挙長は各立会人の意見を開いた上で有効、無効を決定し、ついで有効票を候補者別に百枚括りにして選挙長に渡し、選挙長はこれを点検の後四名の立会人に廻し、各人精粗の別はあるが全員その点検を終り、候補者豊田護の得票数が同進藤正臣のそれより一括り(百枚)余り多いことが判明した。その頃投票所で交付した投票用紙の数と実際の投票数との間に十一票の差があることが判つたので、立会人松成及清国の両名は、各括りの有効票の上に添付した有効決定票と表示した紙片に捺印することを拒み、さきに開票当初に問題となつた錠やかぎの点と右投票用紙の不足を捉えて本件選挙は厳正に行われていないと主張し選挙の効力につき異議を申立てた。そこで選挙長は一応選挙管理委員の意見を聞いた上で決定することゝし、委員を招集したところ、各委員とも選挙長の判断で決すべきであるという意見であつたので、江畑、後藤両立会人に異議がないことを確かめた上で選挙長は各候補者の得票数を計算し、豊田候補の当選を公表して選挙会を閉じた。この間立会人清国八郎、松成和市の両名は選挙録に署名せずに退場した。以上の各事実が認められ、右認定に反する証人松成和市、清国八郎の各証言部分は措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば本件選挙の開票事務は公正になされ、原告等主張のような違法はなかつたことが明白である。

(四)  成立に争のない甲第十号証、成立を認むべき甲第九号証、証人平松力男、永松昇、有田健一、本間太郎、徳光顕一、渕洲子の各証言、原告本人渕晉の供述によれば、投票当日、選挙人の一部が豊田護を支持する株式会社菅組の前代表取締役堤与又は右会社所有の客用自動車又はジープ等で投票所に赴いた事実は認められるけれども、原告代理人が右事実から推測するそれ以上の事実はこれを認めるに足る資料が全く存しないし、右認定事実があるからといつて、本件選挙が自由公正に行われたものでないという原告等の主張は当らない。

以上説示のとおり、本件選挙には一部選挙の規定に違反する点があるけれども、選挙の結果に移動を及ぼす虞があることを認めうる事実がないから、原告等の本訴請求は理由のないものとしてこれを棄却し、訴訟費用は原告等に負担させることゝし、主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 丹生義孝 岩崎光次)

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